こんにちは、Mountain DCちかです。北アルプス縦走中に遭難者に出会いました。
私は観光業に従事していたため、夏は添乗業務で忙しく、登山をするのは秋の時期のみ。数年前の10月中旬、仕事仲間の友人(山岳ガイドの資格を持っています)と、満を期して北アルプスの大縦走を計画しました。
すでに紅葉の時期も終盤、縦走中には山に初雪が降りました。登山者の数も少なく、槍ヶ岳山荘はガラガラ、外国人登山客と数名の日本人しか宿泊していません。
そんな状況下で、槍ヶ岳から南岳に向かって歩いている途中、フラフラと稜線を歩いている中高年ご夫婦を発見…!コースからもやや外れていて「どこへ向かっているの?」という状況だったので声をかけてみると、昨日は宿泊予定の小屋に辿り着けなくて、標高3000mの寒空の下でビバークしたとのこと…。
彼らは、下山する力ももう残っていない、道に迷ってしまった「遭難者」でした。どこで出会ったのか、どのように救助されたのか、その後どうなったのか、気になる情報をシェアします。
遭難者救助を目撃した後は、自分に何ができるか、いろんなことを考えました。ぜひ一緒に考えてみてください。
遭難者と出会った場所や状況について
私たちが歩いたルートは、「中房温泉→燕岳→大天井岳→大天井荘(泊)→西岳→槍ヶ岳山荘(泊)→槍ヶ岳→中岳→南岳→大キレット→北穂岳→涸沢ヒュッテ(泊)→上高地」です。
中房温泉から大天井岳までは快晴で順調♪
しかし、その後、大天井ヒュッテから西岳、北鎌尾根を通って槍ヶ岳山荘までは、天気の移り変わりが激しく、なんとか歩いて槍ヶ岳山荘に飛び込んだ時には辺りは真っ白。外は吹雪いていました。
その日のうちに槍ヶ岳にアタックする予定でしたが敵わず、翌日もし晴れたら行こうか…と話していました。見事に翌日は天気が回復し、無事に槍ヶ岳に登頂できました!
その後、朝食を食べて、いよいよ縦走のクライマックス「大キレット」に挑戦!
意気込んで槍ヶ岳山荘から歩き始めたのですが、中岳(3208m)を通り過ぎたあたりで、フラフラ歩く中高年夫婦に出会いました。
明らかに足取りがおかしい
こんなところで人と出会うなんで珍しいな…。今までの道では、慣れていそうな人しか出会わなかったのに…と思いました。そして、明らかに足取りがおぼつかないのです…。
そっちはトレイルじゃないよ?という方向に向かって、女性の方は足を引きずって、男性につかまりながら歩いています。「ちょっとおかしいよね?」となり、仲間の一人が声をかけました。
仲間:「こんにちは、どうしましたか?」
男性:「いやいや、大丈夫です!」
大丈夫そうには見えません。男性は目が真っ赤、女性の方はもう歩けないんじゃないか?というくらい疲労困憊しています。
仲間:「大丈夫じゃないですよね?昨日はどこに泊まりましたか?」
男性:「いや…大したことないです。昨日は…山小屋を予約したのですが、わからなくなっちゃって外で野宿したんです…」
仲間:「えっ!それは大変でしたね!寒かったでしょう…。何か飲みますか?」
男性:「ありがとうございます!いや、水があれば大丈夫!お水がありがたい…」
予備で持っていた500mlのペットボトルを一つ差し上げました。女性は座り込んでいたので、持っていた温かいホットチョコレートを入れてあげました。しばらく雑談…。
話を聞くと、昨晩はビバーク装備もないので、雪が降る中、岩陰に身を潜めながら、夫婦で眠らないように声を掛け合って何とかやり過ごしたそうです…。目も真っ赤になるはずです…というか死ななくて良かった。
仲間:「これからどうやって降りるのですか?どこのルート歩きますか?」
男性:「いやー、大丈夫です!大丈夫!」歩き出そうとします。
仲間:「そっちは道ではないですよ!救助呼びますか?携帯ありますか?」
男性:「いやー、携帯は電池が切れてしまって…。大丈夫です…、救助は呼ばなくていいです…。迷惑かけたくないので…」
迷惑をかけることを心配して、助けを求められない様子でした。でも、こちらとしては勝手に救助要請するわけにもいかず、放っておくわけにもいかず…。
仲間:「はっきり言って、今あなたは遭難しているんですよ!地図はあるんですか?これからどうするんですか?」
男性:「ごめんなさい、でも大丈夫です…。なんとかします」
地図は1/50000サイズの白黒コピーしか持っていないようでした。
仲間:「大丈夫ではないですよ!奥さんはどうするんですか?歩けないでしょ?救助呼びますよ!?」
女性:「お願いします…うー(泣)」
男性:「おまえはだまっていなさい!」
男性:「本当に大丈夫なので!ありがとうございます、ご迷惑おかけしました!」
仲間:「いいんですか!?本当に行っちゃいますよ?」歩き出そうとしながら様子を見るが、また戻る。
こんな押し問答が続き…、最後は厳しい言葉も投げかけながら何とか説得して、まずは近くの山小屋に連絡しました。
遭難者の救助要請で聞かれること
一番近くの山小屋「槍ヶ岳山荘」に電話して状況を伝え、警察に救助要請をしてほしいと言われました。
地図に書いてあった連絡先に電話をかけます。
まず、一番始めに聞かれたのは「現在地」です。
なるべく正確に伝えます。そうすると、そこは長野県管轄ではないので岐阜県に連絡してくださいと言われました。
岐阜県に連絡するも、そこは長野県と言われる…。たらい回しになりました(笑)どちらの管轄になるかが重要みたいです。
最終的にどちらが動いたのか失念してしまったのですが(たぶん長野県)、その後もこんなことを電話で言われました。
- 本当に救助が必要なのか、改めて考えてください。気軽に出動できるものではありません。
昨晩雪の中でビバークしたこと、地図や十分な装備がないこと、携帯の充電がないこと、奥さんが疲労困憊でもう歩けそうにないことを伝えました。 - 本人の救助要請がなければ動けません
本人に電話を代わり、本人の口から救助要請をしてもらいました。おそらく本人の名前や年齢、出身地なども確認されていたと思います。 - ヘリコプターの出動には多額な費用が発生する場合があります。本人の了承が必要です。
ご本人が「構いません」と答えてました。 - ヘリコプター出動するので、待機場所まで移動するように
指示場所まで一緒に移動しました(数十メートル下の少し開けた場所) - 遭難者が着用している服の色や特徴
今回は派手なレインウェアを着用していたので、その色を伝えました。やはり遭難時には、派手色のウェアが役に立ちますね!
数年前のことなので、あやふやな部分はありますが、こんなことを聞かれていたと思います。その後、ヘリコプターの出動が決まるまで待機しました。
その日は天候は良好でしたが、やや風があり、救助場所に雲がかかって視界不良になると「飛べません…」となってしまうので、30分以上はその場で待機していたように思います。
ようやくヘリコプターが飛ぶことを確認後、気を取り直して大キレットへと歩き始めました。今思えば本当に大変だったなあ…。
ヘリコプターで無事に救出
先を急ぐので警察に任せて、私たちは歩き始めました。
無事にヘリコプターが到着、救助される様子は南岳近くの稜線上で見守り、良かった〜と胸を撫で下ろしました。
ヘリコプター救助の様子とか初めて見ました…。もちろん遭難者に出会ったことも初めて。
後日、登山仲間が渡していた名刺に、「何とお礼を言ったら良いか…」と連絡があったそうです。
息子に、「人に出会わなかったら死んでたぞ!迷惑かけるな!」とこっぴどく怒られたそうです。
遭難時は大変な緊張状態だったと思いますので、家に戻ってほっとして、事の重大さを認識できたのではないでしょう。
遭難者救助を見て考えたこと
無事に救助されて一件落着!となりましたが、いろいろ考えました…。
どうして登ってしまったのだろう?
北アルプスの10月中旬となれば、山小屋もぼちぼちと閉まり始めて、降雪がいつあっても自然な季節です。冬山に近いコンディションになりますので、危険性も高くなります。
こんな時期に、ご夫婦でどうして登ろうと思ったのだろう…?という疑問は拭えません。
基本的な登山ウエアは持っていましたが、装備は不十分でした。地図もコピーした白黒のものです。携帯の地図アプリも、もちろん使っていません。
上高地が有名になったことできれいな写真が出回り、知識なく山に入ってしまったのでしょうか。かっこいい槍ヶ岳に憧れてしまったのか。
それにしても、登山の十分な経験なしに槍ヶ岳付近の3000mの稜線まで上がってくるって、すごい根性だと思うんですよね…。途中に梯子や鎖場もあっただろうし、高度感があってこわい場所も多いです。
このような救助要請って頻繁にあるのだろうか…?どうしたら防げるの?と考えさせられました。
私一人だったら救助要請できただろうか?
遭難者に出会った時に、私一人だったらどのように対応しただろうか…?と考えてしまいました。
特に、今回は遭難者が救助要請を拒否していたわけですし、助けを求めようとしていませんでした。「大丈夫!大丈夫だから」と言われて、そのまま素通りしてしまえば、ご夫婦は助からなかったかもしれません。
山小屋の人に相談したかもしれない。でも、状況を一番わかっているのは、目の前にいる私です。
警察に電話して「本当に救助が必要なのか、気軽に出動はできない!」と言われて、心を強く持って「〜の状況だから、絶対に必要です!」と言えるだろうか。
そもそも救助が必要だということを本人に説得できなければ、救助要請自体もできませんでした。もし説得できずに放っておいて、後から行方不明のニュースなんて流れてきたら、一生後悔するかもしれません。
山に登るのは自己責任ではあるけれど、何かあったらやはり周りに多大な迷惑をかけることは間違えありません。普段からも、山で出会う人に対して「どのくらいおせっかいになるか」って結構難しいですよね。
ヘリコプターの救助費用っていくらかかるの?
警察に連絡した時に言われた救助費用っていくらかかるんだろう?と疑問に思いませんか。
山岳保険JIROのホームページでは、1時間当たり46万5000円と書いてありました。かなり高額ですね〜。実際に場所がはっきりと特定できていれば1時間で救助が済みますが、場所が特定できなければ何時間も巡回することになるので、相当な料金が発生することになります。
また、救助時に費用が自己負担になるかは、警察ヘリまたは防災ヘリが飛ぶか、民間の会社のヘリが飛ぶかによって変わっているようです。
今回のケースは、自己負担がかからなかったそうなので、警察ヘリまたは防災ヘリが飛んでくれたのでしょう。まあ、その分自治体のお金(税金)が使われているわけなので複雑ですね…。
北アルプスの夏のシーズンは救助要請が多いので、民間のヘリが飛ぶ可能性が高くなるようです。
いずれにしても、悪天候時はヘリが飛べず救助できませんし、少なからず命がけで助けてくれるわけですから、やはりお世話にはなりたくないですよね…。
携帯がつながらなかったら?
今回は携帯がつながったので救助要請ができましたが、電波がなかったらどうしたでしょうか?
つながる場所を頑張って探すか、山小屋まで戻って救助要請するか。
登山者がたくさん歩いているような場所であれば、救助要請もしやすいです。もし一人で歩いていて、誰も見ていない場所で滑落したら、しばらくは助からないですね…。
登山は慎重になりすぎてもつまらないですが、あらゆる危険は想定しておきたいなと思いました。家族に迷惑をかけないためにも、山岳保険にも加入しておきたいですね。
まとめ:自分が救助される側にならないよう気をつける
北アルプスで遭難者に出会った出来事を振り返ってみました。
登山を続けている以上、自分も救助される側になる時が来るかもしれません。人生は持ちつ持たれつなので、もし自分がまた遭難者に出会った時には、適切に対応できるようになりたいなと思いました。
しかし、遭難やケガをしないための対策も必要なので、最低限大切な家族に迷惑をかけないように、安全管理は徹底したいですね。
明日は我が身なので、皆さん一緒に気をつけましょう!
▼山岳保険どれに加入しようか悩んでいる人は以下の記事をどうぞ
▼登山用のファーストエイドキットのおすすめ!
▼おすすめの本
穂高岳山荘の名物小屋番による遭難救助のお話。人気漫画「岳」に出てくる宮川三郎のモデルにもなっています。実際に現場で起こった臨場感のあるエピソードの数々が、ユーモアのある飾らない言葉でつづられています!
▼おすすめの漫画
北アルプスの遭難の話が出ると「岳」が読みたくなります。北アルプスを舞台にした山岳救助のお話。主人公の三歩が遭難者に対して「よく頑張った」と言葉をかけるのが印象的。
▼映画もとても良かったです。
コメント
コメント一覧 (2件)
初めまして
新穂高から双六、西鎌経由で槍ヶ岳に登り
南岳手前まで縦走し天狗原を降り、
上高地まで下山を1人で行ってきた
アラフィフです
体が浮腫んでいる自覚はありましたが
体重が帰ってきてから3キロ近く増えてて
ダイエット中なのに😭😭😭ってなり検索してたどり着いてます
とても参考になりました
Twitterもフォローさせてもらいました
早くむくみがとれないと職場にバレそうでヤバイなあと心配です
淳子さん、はじめまして!
コメントありがとうございます。
北アルプス縦走良いですね〜!!!
登山後の体重増加って気になりますよね〜(泣)
早くむくみがとれて元に戻ることを祈っています。
Twitterフォローもありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。